スポーツ科学・理論 [基礎知識]

トレーニングの原則(トレーニング科学入門④)

◆効果的にトレーニング成果を導くための法則・ルール◆

トレーニングをただやみくもに行ってもパフォーマンス向上には繋がりません。そこで前回、トレーニングがどのように身体に影響を与え、効果がどのように現れるのかという基本的法則にあたる4つのトレーニングの原理についてお話しいたしました。4回目となる今回は、その4原理に基づいた上で、よりトレーニング効果を効率的に得るために抑えるべきルールと言えるトレーニングの原則についてお話したいと思います。

◆トレーニングの原則◆

トレーニング効果をより効率的に得るために抑えるべきルールと言えるトレーニングの原則は、① 全面性の原則② 意識性の原則③ 反復性・継続性の原則④ 個別性の原則 漸進性の原則の5つとなります。

① 全面性の原則                                               

スポーツには、それぞれの種目に特化した専門的要素がありますが、それを支える土台(基礎)がなければ、いくらその特化した部分を強化しても全体的なパフォーマンス向上にはつながりません。つまり、身体の多面的、全面的な基礎つくりは、その後の高い専門的レベルの体力や技術の獲得にとって不可欠な基礎的条件であり、このことを全面性の原則と言います。基礎つくりを中途半端に専門的トレーニングにあわてて取り組むよりも、専門的レーニングへ移行したい誘惑と戦いながら、基礎つくりのための多面的、全面的開発をしっかり行うことが、結果的にはパフォーマンス向上の近道となるでしょう。このことは子供たちの成長過程においても同じで、早期に専門種目を固定してしまうよりも、ある程度の時期までは様々な種目を経験して、全ての競技に共通して必要とされる体力、様々な種目における多様な技術など、多面的、全面的な開発を行ってから、専門種目を絞っていっても、結果的に遅くは無いのではないでしょうか。

② 意識性の原則                                                    何度も触れていますが、トレーニングをただやみくもに行うだけではパフォーマンス向上には繋がりません。このトレーニングは「どの部分」に対して、「何のために」行うのかということを常に考え、取り組むことが重要です。このことが意識性の原則にあたります。トレーニングの取り組みがより、自主的に、自律的に、積極的に変化していくことにより、トレーニング効果をより効率的に得ることに繋がっていくと考えられます。

③ 反復性・継続性の原則                                                トレーニングを正確に何度も反復することによって、脳と筋に対するその動作の運動神経プログラムが構築されます。しかし、正確性にムラのある動作でのただ単なる反復で終わってしまっては、その動作の正確な運動神経プログラムは構築できず、必要な技術の習得には繋がりません。つまり、技術の習得のためには、正確な動作の反復と継続が重要であり、このことを反復性・継続性の原則と言います。あわせて、正確性を最後まで保ち続ける反復には、相当の体力が必要となり、高い専門的レベルの体力や技術の獲得には、その前段階の多面的、全面的な基礎つくりが不可欠であるという全面性の原則ともリンクすると言えるでしょう。

④ 個別性の原則                                                    第1回の「トレーニングは何のために行うの?」で、試合当日の「なりたい自分」と「現在の自分」とのギャップを埋める作業がトレーニングであると述べました。当然、そのギャップには個人差があり、体力、技術、性別、年齢などパフォーマンスに影響する要因とあわせて、やるべきこと、やり方などアプローチは様々であり、その個々人にあったトレーニングを行うことが、安心・安全に効果的にトレーニングの成果を導き出すためには重要です。このことを個別性の原則と言います。

⑤ 漸進性の原則                                                 漸進とは「ゆっくり・少しずつ」という意味であり、漸進性の原則とは、強くなるためにはゆっくりと少しずつトレーニングをきつくしたり時間を長くしたりして、負荷をあげていかなければならないということです。ただし、急激に上げ過ぎると怪我や故障につながり、可逆性の原理からトレーニング効果はあっという間に元通りになってしまいます。しかし、ゆっくり着実に長い時間をかけて育て上げた力は、トレーニングを中断しても、トレーニング効果が消滅するスピードは遅いと言われています。その意味でも本当の強さをみにつけるためには、少しづつ長期的にトレーニングの質や量のレベルを上げて行くことが重要になると言えます。

2回にわたって述べてきた、これらのトレーニングにおける4原理および5原則をしっかり理解した上で、しっかりとトレーニングに取り組み、自身のパフォーマンス向上につなげてもらえればと思います。

次回は、トレーニング負荷を決める要因についてお話したいと思います。                                              

この記事を書いた人
木路 コーチ
20年間、自身の競技と指導活動で大塚製薬陸上部にお世話になったのち、筑波大学大学院のスポーツマネジメント領域に進学し、高度競技マネジメントの研究に携わり、現在、大学生の長距離指導者としての人生を歩んでいます。 専門分野としては、コーチング学(目標論、方法論、評価論)とスポーツマネジメント学(組織論、強化システム論、企業スポーツ論、地域スポーツ論)となりますが、そんな堅苦しいことではなく、自分を育ててくれた「ランニング」で得たものを使って、何かしらの恩返しができれば良いと思っています。よろしくお願いいたします。

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