ランニング理論・科学

【論文紹介】6週間のプライオメトリック トレーニングによるランニングエコノミーの改善

Journal of Strength and Conditioning Research, 2003, 17(1), 60–67
q 2003 National Strength & Conditioning Association

Improvement in Running Economy After 6Weeks of Plyometric Training

AMANDA M. TURNER, MATT OWINGS, AND JAMES A. SCHWANE
Exercise Physiology Laboratory, Department of Health and Kinesiology, The University of Texas at Tyler, Tyler,
Texas 75799.

【論文(PDF)】6週間のプライオメトリック トレーニングによるランニングエコノミーの改善
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学生(杉山魁声:令和3年卒)の要約と解説

本研究の緒言

ランニングエコノミーとは「所定の速度で走る際に体内で消費する酸素量を示したもので、より少ない酸素消費であるほど良い」とされる。当該研究者は、性別トレーニングステータスと健康状態年齢機械的変数筋繊維の種類の分布心拍数換気量筋肉が弾性エネルギーを貯蓄し使用する能力、など、ランニングエコノミーに関連する可能性のある要因を特定している。

弾性エネルギーを使用する筋肉の能力は、SSC(SSCは、ストレッチ・ショートニング・サイクルの略で、短縮性収縮と伸張性収縮の組み合わせ)を伴う動きで重要であり、ランニングを含む人間の動きの多くはSSCが関係している。中でも、筋肉は短縮性収縮中に多くの力を生成し、より効率的に力を発揮するメカニズムを有している。

プライオメトリックトレーニングは、筋肉が力を生成する能力を高めるためのトレーニングとして使用されるが、プライオメトリックトレーニングは、ジャンプ、ホッピング、バウンディングのような活動を行うことでSSCが誇張できる。それによりジャンプ能力やその他のハイパワー動作を改善されることが確認されている

これはプライオメトリックトレーニングが弾性エネルギーを貯蓄し、それを使用する筋肉の能力を向上させることを示唆しているが、これの直接の証拠は提示されていない。もしプライオメトリックトレーニングが筋肉の弾性エネルギーの貯蓄、使用能力を改善する場合、このようなトレーニングはランニングエコノミーも改善するはずである。

この研究は、6週間のプライオメトリクストレーニングが一般レベルの長距離ランナーのランニングエコノミーを改善するかどうかを検証するものである。また、プライオメトリックトレーニングの影響を受けているかどうかを判断するために、筋肉の弾性エネルギーの貯蓄、使用能力の間接指標を選択し測定した研究でもある。

実験方法【被験者について】

・18人のボランティア(8人男性10人女性)
・実験群 10人 / コントロール群 8人
・アメリカスポーツ医学大学によって定義された
・見かけ上健康なカテゴリーの基準を満たした
・少なくとも研究の6ヶ月前から全ての被験者が定期的にランニングトレーニングを行っていた(週当たり少なくとも10マイルと3セッションあたり)
・非喫煙者
・ランダムに実験グループとコントロールグループに割り当てた

実験方法【条件設定について】

テスト中の被験者の代謝状態をある程度同じ条件下にするために、テストまで以下のものを控えるように指示した
①食事(2時間前から)
②カフェイン(前日から)
③激しいまたは通常でない運動(前日から)

実験方法【トレーニング方法】

①実験グループは普段行っているトレーニングに加えて、1週間に3回のプライオメトリックトレーニングを実施し、これを6週間続けた。
②コントロールグループは新しいトレーニングを行うことなく通常の練習を継続した。
③プライオメトリックトレーニングでは6つのエクササイズを実施した。

実験方法【トレーニング処方】

表)6週間のプライオメトリック トレーニング処方の概要(論文より抜粋)

Exercise Repetitions

<Week-1>
Warm-up vertical jumps
Vertical jumps
One-legged vertical jumps
Vertical springing jumps
Split-squat jumps
Incline jumps

10
5
5 with each leg
15
5/5 alternating leading leg
10
<Week-2>
Warm-up vertical jumps
Vertical jumps
One-legged vertical jumps
Vertical springing jumps
Split-squat jumps
Incline jumps
10
8
5/5
20
8/8
15
<Week-3>
Warm-up vertical jumps
Vertical jumps
One-legged vertical jumps
Vertical springing jumps
Split-squat jumps
10
10
8/8
25
10/10
<Week-4>
Warm-up vertical jumps
Vertical jumps
One-legged vertical jumps
Vertical springing jumps
Split-squat jumps
Incline jumps
10
12
8/8
25
15/15
20
<Week-5/Week-6>
Warm-up vertical jumps
Vertical jumps
One-legged vertical jumps
Vertical springing jumps
Split-squat jumps
Incline jumps
10
15
10/10
30
20/20
25
Vertical jumps(垂直飛び)の例

One legged vertical jumps(片足垂直飛び)の例

https://youtu.be/dmx8roGpwDI (出典元YouTube:Lifetime Lean)

split squat jump の例

https://youtu.be/RtY9kyhuh5I (出典元YouTube:Northeastern)

実験プロトコル【①ランニングエコノミーの測定】

トレッドミルにて下記の3つの速度で6分間の走行測定(セッション間は6分間の休憩)
男性:2.68 m/s → 3.13 m/s → 3.58 m/s
女性:2.23 m/s → 2.68 m/s → 3.13 m/s

実験プロトコル【②弾性エネルギーの貯蓄、使用能力の測定】

以下の間接的な指標を使用
(a)反動ジャンプ(CMJ)
(b)静的ジャンプ(SJ)
(c)CMJ効率とSJ効率の差
(d)CMJ効率とSJ効率の比

反動ジャンプ(CMJ)の例

静的ジャンプ(SJ)の例

https://youtu.be/YGGq0AE5Uyc (出典元YouTube:Third Space London)

実験プロトコル【③弾性エネルギーの貯蓄、使用能力の測定】

最大ジャンプはランニングエコノミーの測定前に実施
最大努力下のウォームアップジャンプを数回行った後に実施 ※休憩間隔に関しての記載なし

実験プロトコル【④VO₂MAX測定】

・VO₂MAX測定は、ランニングエコノミーの測定後、時間を空けて測定された。
・VO₂MAX測定の走行速度は、ランニングエコノミーテスト走行速度に対する被験者の応答に基づいて決定した。
・VO₂MAXの速度の範囲は、男性:3.58~4.92 m/s、女性:3.13~4.02 m/s

実験プロトコル【⑤VO₂MAX測定】

・セッションが終わるごとに2.5%ずつ速度が増加し、テストは断続的に行われた。
・各セッションは3分間で実施され、セッション間に被験者は10~20分の休息をとった。
・VO₂(酸素摂取量)は、走行運動の最後30秒間で測定された。

実験プロトコル【⑥VO₂MAX測定】

VO₂MAXのレベリングオフが見られた場合、もしくは被験者が疲労のために続行不可能となった場合にテストは終了した。
※後者の場合は3日以内に再テストを実施した。

実験プロトコル

実験は下記の通り、全部で3回実施した
1回目:研究の開始前
2回目:1回目の1~2週間後、研究の開始前
3回目:6週間のトレーニング期間終了から3日後

統計分析

従属変数(ランニングエコノミー)に対する独立変数(トレーニンググループ)の影響は、二因子分散分析によって評価された。
2回目のテスト結果を事前トレーニング値として使用した。※1回目のテストは、テスト手順の説明も兼ねて実施した

実験経過について

前提として、トレーニング期間前に測定された変数に関して、実験グループとコントロールグループの間に大きな差はなかったことを確認。一人を除いてすべての実験対象者が、所定のプライオメトリックトレーニングプログラムに完全に準拠していた。

実験結果【ランニングエコノミー】

3つの走行速度すべてにおける各被験者のランニングエコノミーの平均値を計算した。
平均値に加え、男女両方の被験者が走った2つの走速度( 2.68m/s と 3.13 m/s )それぞれについてのランニングエコノミーを分析した。
分析の結果、プライオメトリックトレーニングによってランニングエコノミーの改善が見られた

※走速度 3.13m/s =約5分20秒/km、2.68m/s =約6分13秒/km

実験結果【ジャンプテスト】

すべてのテストにおいて、CMJのほうがSJよりも高くなったが、グループ間でそれぞれのジャンプの高さに大きな違いはなかった。
トレーニング前より、トレーニング後のほうが数値が良くなっていたが、グループ間で大きな違いはなかった(統計的有意性は見られなかった)


6週間のプライオメトリックトレーニングによる筋肉の弾性エネルギーの使用能力の改善は見られなかった


実験結果【VO₂MAX】

どちらのグループにおいても、トレーニング前後でVO₂MAX平均値の変化は見られなかった
トレーニング前 実験グループ:50.4±9.0(ml/kg/min)コントロールグループ:54.0±7.2(ml/kg/min)
トレーニング後 実験グループ:50.4±8.0(ml/kg/min)コントロールグループ:54.2±6.4(ml/kg/min)

考察(学生=杉山の考察)

今回の研究で6週間のプライオメトリックトレーニングによって、ランニングエコノミーが改善されることが示唆されたわけだが、この研究では高い走力を有するランナーを対象としていないため、条件を制限する必要がある、という可能性は否定できない
⇒既に走力が高く、高度なランニングエコノミーを有しているランナーのエコノミーを改善することは難しいと予想されるからである

今回のエコノミーの改善はわずか2~3%だったことから、劇的なエコノミーの改善には、長期的、もしくは集中的なトレーニングが必要となる可能性があると思われる。

トレーニング期間前後でジャンプの高さに変化がなかったことに関して、以下のような理由が挙げられる
そもそも、ジャンプ能力の改善(最大高の増加)に焦点を当てていなかったと思われ、プライオメトリックトレーニングプログラムが極端に負荷の高いものではなかったと感じる。「多くのランナーが採用できるように、多くの時間とコストをかけず、筋肉や関節の損傷のリスクが低いプログラムを設定していた」と思われる。

プライオメトリックトレーニングが、ジャンプ能力、ハイパワー動作、SSCを含む動作のパフォーマンスを改善できるという多くの証拠がある(8,10,13,15,16,22,26 ← ※数字は論文最後に掲載されている「References:参考文献」の番号です)。しかし、このメカニズムに関する研究はほとんど存在しない

この研究の結論では、筋肉の弾性エネルギーの貯蓄、使用能力の向上に関係なくランニングエコノミーが改善されたと説明できる。しかし、今回使用した間接的指標では、弾性エネルギー使用能力の改善を検出できなかった可能性があるため、断定することはできない。

プライオメトリックトレーニングの効果のメカニズムは今後の研究成果に期待すべきである。

論文を読んで(学生=杉山の感想)

①夏合宿期間など、単調な練習(距離走など)が多くなりがちな強化期に、長期的な練習としてプライオメトリックトレーニング取り入れることにより、高レベルのランナーでもランニングエコノミーの改善が見込めるのではないかと感じた。

②プライオメトリックトレーニングによって身体の使い方を習得できたことで、ランニングエコノミーが改善されたのではないかと感じた。

③練習量の差によって変化が生まれたことを否定できないので、対象グループの練習量をジョグ時間を増加させるなどの方法で差が生まれないように工夫しても良いと感じた。

記事投稿と杉山(当時学生)について

令和3年に筑波大学を卒業し、現在は、Kao(花王)陸上競技部で活躍している。学生時代は、体力学を専攻し、鍋倉教授の研究室に所属していた。卒業研究を進めている段階で、ここで紹介した研究論文を翻訳して勉強した、とのこと。

 

この記事を書いた人
学生アスリート
令和のいだてん
筑波大学 陸上部 駅伝メンバーです。 箱根駅伝出場を目指し日々鍛錬中!

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