コラム

スポーツとまちづくり

◆スポーツ事業による地域活性化の効果

前回のコラムで、豊かに生きるということは、肉体的、精神的、社会的全てに満たされた先にあるWell-Being(幸福感)を創造し、高めて行くことであり、それを創り出す力を持つスポーツを、いつでも、どこでも、だれでも、いろんな形で活用できる環境つくりが必要であると述べました。

豊かに生きることができている人々が集まると、当然、その地域全体は活気にあふれるまちになるでしょう。今回は、スポーツがその力を発揮し、活気のあるひと、まちづくりにどのように貢献できるのかを、スポーツ事業に注目して考えてみたいと思います。

スポーツ事業の地域活性化効果には、大きくハード面とソフト面の2つの効果が期待されます。ハード面としては、今回の東京オリンピックや国民体育大会の開催地をイメージしていただければわかるように、大型スポーツイベントを利用した総合運動公園、それに付随する道路交通網、宿泊施設などの社会資本(スポーツインフラ)整備による地域開発の誘発が代表的です。

一方、ソフト面では経済効果として、スポーツイベント開催によるチケットやグッズ売り上げなど直接的なスポーツ消費と、都市再開発によって創り出される新たな人の流れに伴う宿泊や観光などの間接的スポーツ消費の誘発による地域産業の活性化が、社会的効果として、スポーツイベントを通した、住民の地域への愛着感など帰属意識、運動への意識、ボランティアやおもてなし(ホスピタリティ)意識の向上などがあげられます。

 

◆より地域に密着したスポーツ事業への変容

スポーツ事業による地域活性化策といえば、少し前までは、国民体育大会などの全国大会や国際大会など大規模スポーツイベント誘致が主流でした。その究極にあるのがオリンピック、世界陸上、サッカーワールドカップだと言えます。

しかし、そこには、常に「巨額の投資資金回収問題」や「イベント終了後の施設維持費問題」が付き纏ってきました。 これらのことも一因となり、近年、大型スポーツイベント誘致による一過性の効果を求めるのではなく、イベント開催により整備された施設を活用したスポーツ合宿や地域密着型プロチームの誘致、生涯スポーツ拠点としての総合型地域スポーツクラブの運営など「おらがまちのチーム・クラブ」を核とした、地域住民の健康、運動への興味喚起、世代間交流促進やコミュニティ活動の活発化、おもてなしやボランティア意識の向上、地域に対する誇りや一体感の醸成など地域の課題解決に継続的に取り組む「ひとづくり」のツールとしてスポーツ事業を活用する形に変わってきているように感じます。

このことは、地域のスポーツ事業に求める効果が、社会資本整備促進や経済的な効果から、地域住民の意識向上に関わる社会的効果に変容してきていることを表しており、スポーツ事業側もそのニーズに応えるために、施設が出来たから良かった、産業が活性化したから良かったではなく、それをどのように活用し、地域住民に還元していくかという、より地域に密着した社会貢献型の視点への変容が求められていくのではないでしょうか。

今後、私が欧州遠征で訪れたベルギーで見た、夕方になると子供たちが地元の陸上トラックに集まり、クラブのエリートアスリートに陸上競技を教わり、送迎してきたご父兄は併設するクラブハウスで各々コーヒーやビールを飲みながら、ワイワイガヤガヤ子供たちのトレーニングを楽しんでいる日常の光景、地域の人たちが総出で、お祭りのように楽しんでいるイベント時の光景に少しでも近づいていければ良いなと思います。

 

◆スポーツとまちづくり

以上のことから、スポーツ事業による地域活性化とは、単なる地域の再開発による経済の活性化にとどまらない、住民がスポーツ事業に関わることによって得られる様々な意識の向上による地域全体の活気づくりであり、その取り組みこそ、スポーツが持つ力を活用し、Well-Beingを創造、高めて行くことができる環境つくり=スポーツによるまちづくりそのものであると言えるのではないでしょうか。

そして、その効果は、行政、企業、学校、住民の理解、協力に基づく「する」、「みる」、「ささえる」というスポーツへの多様な関わり方による地域全体の協働作業によって最大化されていくと考えられます。 スポーツによるまちづくりを効果的に推進していくためには、その地域の身の丈に合った総合的な都市経営戦略の中にスポーツを組み込みことが重要であり、①「地域のスポーツ資源を商品化し、戦略的な情報提供する」、②「スポーツを利用した地域開発、社会資本整備を推進する」、③「社会問題の解決手段としての地域拠点を提供する」というスポーツ事業が持つ機能を総合的にマネジメントする共同事業体(スポーツコンソーシアム)の重要性も、今後ますます高まってくると考えられます。

 

◆興味のある方はこちらも読んでみてください 


この記事を書いた人
木路 コーチ
20年間、自身の競技と指導活動で大塚製薬陸上部にお世話になったのち、筑波大学大学院のスポーツマネジメント領域に進学し、高度競技マネジメントの研究に携わり、現在、大学生の長距離指導者としての人生を歩んでいます。 専門分野としては、コーチング学(目標論、方法論、評価論)とスポーツマネジメント学(組織論、強化システム論、企業スポーツ論、地域スポーツ論)となりますが、そんな堅苦しいことではなく、自分を育ててくれた「ランニング」で得たものを使って、何かしらの恩返しができれば良いと思っています。よろしくお願いいたします。

RELATED

PAGE TOP