スポーツ科学・理論 [基礎知識]

トレーニングの原理(トレーニング科学入門③)

◆効果的にトレーニング成果を導くための法則・ルール◆

出場するレースが決まって、さあトレーニングを頑張るぞと勢い込んでも、単にきついことや思い付きでやりたいことを行うだけでは、思ったような効果は上がりません。そこで3回目のトレーニング科学入門は、数学や物理を学ぶ時の公式にあたる効果的にトレーニング成果を導くための法則・ルールのうちの、トレーニングがどのように身体に影響を与え、効果がどのように現れるのかという根本的な法則にあたるトレーニングの原理についてお話したいと思います。

◆トレーニングの4原理◆

まず、トレーニングが身体にどのような影響を与え、効果がどのように現れるのかという① 過負荷の原理② 特異性の原理③ 可逆性の原理④ 適時性の原理という4つのトレーニングの原理についてお話しいたします。適時性を除いた3原理としている教科書も多いですが、ここでは適時性も入れた4つの説明をしたいと思います。

 

① 過負荷の原理                                                    全てのトレーニング効果は、その時点での能力以上の負荷を与えることによっておこる生理学的身体適応によってもたらされます。したがって、ある一定以上(現時点での能力以上)の負荷でなければ、また、その負荷も、トレーニングによって向上していく身体適応レベルに応じて上げていかなければ、望んだトレーニング効果は得られません。このことを過負荷(オーバーロード)の原理と言います。

② 特異性の原理                                                           競技には前回お話ししたように、それぞれの種目特性が存在し、その競技特有の身体要因の向上が求められます。ランニングのトレーニングを考えた場合、ウェイトトレーニングによって筋力の向上は望めますが、心肺機能の直接的な向上は望めません。同様に水泳トレーニングは心肺機能の維持、向上にはつながりますが、ランニングのパフォーマンス向上に直接つながるものではありません。つまり、トレーニング効果はトレーニングをした機能、部分にのみに現れ、実際の競技動作、競技速度、運動時間、運動強度など、それぞれの競技特性に則した条件でのトレーニングを実施することが重要となってきます。このことを特異性の原理と言い、「レースは最高のトレーニング手段」と言われる所以の一つかもしれません。

③ 可逆性の原理                                                           トレーニングの効果があらわれるまでには最低3週間かかり、自分の実力として身に付くような長期的なトレーニング効果がでるまでは3か月程度はかかると言われています。その一方で、トレーニングで得られた効果は永遠に続くものではなく、トレーニングをやめてしまうと、せっかくトレーニング負荷に適応した筋力や心肺機能などの生理学的身体適応がトレーニング前に戻ってしまい、トレーニング効果が消滅してしまいます。加えて、トレーニングの継続期間が短ければ短いほど、中断からトレーニング効果消滅までの時間が短くなります。 このことを可逆性の原理と言い、パフォーマンスの維持には可能な限りのトレーニングの継続と効果消滅するほどの長期中断の防止が重要となってきます。

④ 適時性の原理                                                    下図のスキャモンの発育発達曲線で説明されるような発達過程という大きなスパンで見ると、運動神経が急激に発達する時期に正確な見本を見せ、真似させて多様な動きに積極的に取り組ませることや、一方で筋肉の発達に骨格の成長が追いつかない時期に過度の筋力トレーニングをさせないなど、心身の発達に応じた適切なトレーニングの実施が重要です。また、短いトレーニングスパンで考えると、高強度の無酸素能力向上のトレーニングを実施する前には、しっかりとした有酸素能力のベースアップが重要であるなど、トレーニングには、効果を吸収しやすい時期と、しにくい時期があり、やるべき時にやるべきトレーニングを行わないと狙った効果が得られない場合があります。このことを適時性の原理と言い、トレーニング計画立案における局面分け(やるべき時にやるべきトレーニングの配置)の基本となります。

今後、新しいトレーニング方法が開発されていっても、トレーニングが身体にどのような影響を与え、効果がどのように現れるのかというこれらの4原理をしっかり理解していれば、自分たちにとって有効な取り組み方が選択できるようになると思います。

次回は、トレーニング効果をより効率的に得るために抑えるべきルールと言える、トレーニングの原則についてお話したいと思います。                                              

この記事を書いた人
木路 コーチ
20年間、自身の競技と指導活動で大塚製薬陸上部にお世話になったのち、筑波大学大学院のスポーツマネジメント領域に進学し、高度競技マネジメントの研究に携わり、現在、大学生の長距離指導者としての人生を歩んでいます。 専門分野としては、コーチング学(目標論、方法論、評価論)とスポーツマネジメント学(組織論、強化システム論、企業スポーツ論、地域スポーツ論)となりますが、そんな堅苦しいことではなく、自分を育ててくれた「ランニング」で得たものを使って、何かしらの恩返しができれば良いと思っています。よろしくお願いいたします。

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