プログラムの概要
筑波大学がこれまで実施してきたスポーツ科学の追求やランニング実践研究において、科学的な測定(データ)を複合的に評価すれば、ランニング・パフォーマンス(長距離走の能力)を説明できることがわかっています。アスリートやランナーにとって、自身の科学データ(数値)を把握し活用できれば、トレーニング法の正しい選択と実践が可能となり、さらには課題解決を図ることで、長距離走に係わる各種能力の亢進とともに長距離走パフォーマンス飛躍的な向上が期待できます。
このプログラムは、ランニングのパフォーマンス(走力)と密接に係わる身体能力や技術、状態を科学的な視点に立って測定し、データを分析したフィードバックを基に、カラダの持久性能力や運動機能性の解析を体験いただきながら、スポーツ科学を取り入れるための知識やノウハウを学んでいただく講座を組み合わせたパッケージになっています。
ランニング上級者向けとさせていただきますが、一般ランナーからトップアスリートまで、スポーツ科学に興味のある方であれば大歓迎です。科学データに基づいた「ご自身の能力や特徴を正しく知り」「データの読み取り方・評価の仕方を学び」「課題解決のヒントを得る」ことができるまたとないチャンスです。皆様のご参加をお待ちしております。
エクステンションプログラムの全体像(流れ)
開催日程とプログラムの内容
講座の開催日と内容は以下の通りです。第1セッションと第5セッションはオンライン講座(座学)、第2~4セッションが各種測定と実技講座になります。
セッション | 日時 | 内容 | 説明 | 担当教員 |
第1 セッション |
1月27日 土曜日 |
講義 オンライン |
運動生理学とランニングパフォーマンスの関係性 | 鍋倉教授 |
身体組成とスポーツ栄養学 |
麻見教授 | |||
ランニングのバイオメカニクス | 榎本准教授 | |||
走力向上にランニングフォームが重要な理由 | 弘山准教授 | |||
第2 セッション |
2月3日 土曜日 |
各種測定 1日目 |
【運動栄養学】 |
麻見教授 |
【運動生理学】 トレッドミル走行による生理学的な反応を測定 |
鍋倉教授 | |||
【バイオメカニクス】 走行テストによるバイオメカニクス関連の計測 立位・歩行動作時の足圧分布測定 |
榎本准教授 弘山准教授 |
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第3 セッション |
2月4日 日曜日 |
各種測定 2日目 |
【運動生理学】 トレッドミル走行による生理学的な反応を測定 |
鍋倉教授 |
【バイオメカニクス】 走行テストによるバイオメカニクス関連の計測 立位・歩行動作時の足圧分布測定 |
榎本准教授 弘山准教授 |
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第4 セッション |
2月10日 土曜日 |
実技講座 走力テスト |
【実践トレーニング論】 フォーム改善・セルフ分析のポイント(座学) ランニングフォーム改善トレーニング 1500mタイムトライアル(センサー装着) |
弘山准教授 |
第5 セッション |
2月17日 土曜日 |
講義
|
運動生理学的評価と生理機能の向上 | 鍋倉教授 |
身体組成データの解説と栄養学を活用した改善 | 麻見教授 | |||
ランニング動作の特徴を示すデータの解説 | 榎本准教授 | |||
ランニング動作改善とデバイスの活用 | 弘山准教授 |
受講人数と参加者の条件について
※先着32名まで(最小開講人数は10名)
・スポーツ科学に興味のあるトップアスリート、市民ランナー
・走力は問いませんが、一般ランナーの場合は、フルマラソン4時間以内が目安
・トレッドミル(動く走路)を走る自信のある方
・スポーツ障害がなく全力で走ることができる方
・未成年の方は、陸上競技・中長距離を専門とする高校生以上の選手に限る(親権者の同意が必要)
参加費
第1~第5セッションのパッケージ料金は 65,000円(税込)
パッケージには、各講師の講義の他に以下の測定・分析が含まれます
① トレッドミル走行テストによる生理学的な反応を測定 |
② 実走行によるランニングバイオメカニクス測定(加速度センサーによる分析) |
③ 立位、歩行運動時の足圧分布測定 |
④ DXA法体組成測定 |
⑤ マルチスキャン体組成測定 |
⑥ 食生活の分析と栄養アドバイス |
⑦ 身体動作テスト(関節可動域、多関節連動性) |
⑧ 1500mタイムトライアル(VO2max走力テスト) ※加速センサー装着による分析を付加 |
各種測定に関する詳しい説明
各種測定は、筑波大学体育系の各研究領域で開発・監修された測定プログラムであり、測定に利用するデバイス(機器)やアプリケーションも筑波大学が開発・監修に係わったものが多く含まれます。
なお、体組成測定は医師の指示により実施され、測定中に発生する体調異変や傷害に備えて医師が待機する体制をとります。以下に、測定に関する詳しい内容を説明しますので、よく確認した上でご参加ください。
体力学測定(運動生理学)
トレッドミル走行テストによる生理学的な反応を測定
トレッドミル(動く走路)上を走行して、持久系能力に関係するカラダの生理学的な反応を測定します。
【測定項目】
走運動における「エネルギーを多く産み出す能力」「高いエネルギー発揮を維持する能力」「エネルギーを効率よく使う能力」「それぞれの能力を示す指標の走速度」「オールアウト(全力走)ステージのパフォーマンス」「最大心拍数」などを測定し分析結果をフィードバックします。
測定項目の説明
【測定方法】
トレッドミル(動く走路)の上を走りながら、カラダの持久性能力(生理学的機能)を測定します。測定の手順は以下の通りです。
1.トレッドミル上の走り方や注意点をお伝えし、走行練習を実施
2.ウォーミングアップを兼ねた5分間走を実施
その間にランニングエコノミーO2コストを測定
3.5分間の休憩
4.漸増負荷走テスト
最初の開始速度は走力(ベストタイム)に応じて決定
ジョギング程度のゆっくりしたスピードから、毎分0.6㎞/hずつ速度を上げていき
オールアウトする(全力走になる)まで走ります
これ以上速度を上げれなくなった時点(おおよそ10~15分程度)で走行テストが終了
5.椅子に座った状態で心拍数の回復状況をモニタリング
6.測定終了
バイオメカニクス関連の測定
バイオメカニクス漸増負荷走テスト
CASIO×ASICS モーションセンサー(CMT-S20R-AS)とRunmetrix(アプリ)を用いてランニング動作(5回の800m走)をバイオメカニクスの観点で解析します。このセンサーは、この講座を担当する榎本准教授と弘山准教授が開発に係わった製品で、GPS+9軸センサー搭載のウェアラブルデバイスで、ランニング中の身体の動きを高精度にトラッキングすることができます。
モーションセンサーで計測できるランニング指標
パフォーマンス (基本指標)
周期(ランニングサイクル) (s)、ピッチ (step/min)、ストライド (m)、ランニング速度 (m/sec)
ステップシーケンス (並進指標)
上下動 (cm)、接地時間 (ms) 、沈み込み (接地後) (cm)、沈込時間 (ms)、左右動 (cm)、前後動 (cm)
身体の動き (回転指標)
腰の平均傾斜角度 (センサーの装着位置)、前傾角度 / 左右角度、腰の最大回転角度=ヨー / ロール / ピッチ(ピッチング)
効率指標 (力の指標)
加速度力積、前進方向力積、後退方向力積、左右方向力積
測定方法
<測定の準備>
1.スマートフォン用アプリ「Runmetrix」をダウンロード
2.ユーザー登録をしていただきます
3.各自でウォーミングアップ
<走行測定>
4.モーションセンサーをランニングタイツに装着
5.スイッチをオンにしセンサーの動作を確認
6.競技場のトラック走路で指定された速度で800mを5回走行
各回の休息は3分です
※指定の速度で走れない場合は距離短縮を検討
7.走行中に動画を撮影します
8.走行終了後にモーションセンサーとアプリを同期してデータ保存
関連先リンク
ASICS Runmetrix アプリ
https://www.asics.com/jp/ja-jp/mk/running/asics-digital-coaching/runmetrix-motionsensor
CASIO×ASICS モーションセンサーCMT-S20R-AS
https://www.casio.com/jp/run-walk/product.CMT-S20R-AS/
足圧分布測定
ベルギーのRsscan社により開発された足底圧分布計測システムfootscan(国内の提供元はゼロシーセブン株式会社)による立位および歩行時の足圧分布状況を計測します。高密度に配列されたセンサにより足の指など小さな部位までのマッピングデータをVer.9 Essentialsソフトウェアを用いて、静止状態で重心動揺の計測や、歩行時のCOP解析をおこないます。
経過時間に対する足圧の変化を2D/3D表示で視覚的に把握したり、任意の足底圧の圧値変化を確認することができます。重心動揺とダイナミック歩行解析もおこないます。
測定項目
足圧2D表示
再生機能により足圧の変化を再生表示して視覚的に確認いただきます(スマホ撮影可)
足圧3D表示
再生機能により足圧の変化を再生表示して視覚的に確認いただきます(スマホ撮影可)
経過時間に対する足圧値の変化(任意の10カ所)
・任意の部位10カ所の時間軸に対する圧値の変化を観測
・ファーストストライクから歩き抜けるまでの総時間出力
経過時間に対する圧値の変化(推奨設定の10エリア)
・任意の10エリアの時間軸に対する圧値の変化を観測
・ファーストストライクから歩き抜けるまでの総時間の出力
・足の回内と回外の度合いを解析
足底サイズ計測
足底の各サイズを計測します
静止状態計測
左右、上下、四分割し圧の比重を自動解析表示
重心の移動距離、移動距離の近似面積、座標を出力
測定結果レポート
様々なデータが抽出できるので、その結果をカスタマイズしてレポートとして後日フィードバックします。
※詳しくは、ゼロシーセブン株式会社のホームページの製品案内ページでご確認ください。
https://www.0c7.co.jp/products/sensing/rsscan/rsscan-lineup/footscan-soft.html
測定方法
測定用プレートに素足で乗っていただきます。立位や歩行、重心移動など、測定係の指示に従って、姿勢変化や動作をするようにお願いします。再生表示をフィードバックすることができないので、その場でスマホにて撮影していただいても構いません。足圧の変化やレベルを測定するので、可能な限り軽装でお願い致します。
体組成測定
DXA法体組成測定
体組成を測定する方法の内、ゴールドスタンダードとされている二重エネルギーX線吸収法(DXA法)により体組成測定を行い、以下のデータを取得します。
DXA法体組成測定の測定項目
1.骨面積、骨塩量、骨密度
2.脂肪量
3.除脂肪体重(除脂肪量)
4.全身重量
※上記の項目を下記の部位別に表示します
全身、頭部除去、頭部
左腕骨、右腕骨、左肋骨、右肋骨、胸椎骨
腰椎骨、骨盤骨
左脚骨、右脚骨
測定方法
測定は、3分程度測定用ベッドの上で安静姿勢(仰向け)で行います。
この測定は、2種類の波長の異なるX線を用いますが、X線の被曝量は胸部X線撮影時の1/10以下です。測定は、資格のあるX線作業主任者・X線管理責任者の下、医師の指示によって、資格のある診療放射線技師により安全に行われます。
注意事項
測定の可否について
既に1年以内に1mSv以上のX線被曝を受けている可能性がある場合には、測定できません。なお、呼吸器に特段の異常がない場合には、健康診断時の胸部X線健診は辞退することができるので、当該の1年間に1 mSv以上のX線被曝とならないことをご自身で確認のして測定に参加してください。
また、測定当日までの体調に留意していただき、体調不良である場合は測定は行いません。測定途中であってもご本人または測定担当者が体組成測定の継続が困難であると判断した場合には、測定を中止します。
測定時の服装について
測定時は軽装のスポーツウエアを推奨しています。金属類は撮影の妨げになりますので、チャック、 ボタン類のない服、大きな絵柄(文字も含む)が書かれている服も着用できません。ポケットなどに何も入っていないことの確認もお願いします。
ご自身で準備される服装での測定を原則お願いしていますが、検査着の用意もありますので、測定に支障のある衣類着用時には着替えをお願いすることになります。
マルチスキャン体組成測定
マルチ周波数生体電気インピーダンス法(BI法)による体組成測定も行います。この方法は多くの家庭用体組成計にも採用されている方法です。ここでは、複数の周波数を用いたより精度の高い測定法で体組成を測定します。この測定法では 繰り返し測定が可能ですから、短期間(数日から数ヶ月程度)の体組成変化をモニタリングすることが可能です。今後の体組成変化のモニタリングの一助にできるように、高精度の機種を用いて測定します。
マルチスキャン体組成測定の測定項目
1.体重、BMI、BMR
2.体脂肪率、脂肪量、除脂肪量
3.筋肉量、推定骨量、体水分量
※体脂肪量と脂肪量、徐脂肪量、筋肉量、体脂肪率については、以下の部位別に表示します。
右脚、左脚、右腕、左腕、体幹部
測定方法
測定は、マルチ周波数体組成測定器(TANITA MC190)を使用し、素足で実施します。測定精度の管理のために測定部位をアルコール綿で拭きます。アルコールにアレルギー症状が出る方は、異なる方法を用いて測定部位の拭き取りを行いますので、申し出をお願いします。
測定時の服装
衣服の種類は問いませんが、貴金属は全て外し、自分が見える場所に置いてください。衣服の総重量を500gとして計算しますので、概ね500g程度の服装を着用するようお願い致します(500gに近づけるほど正確になります)。それ以上の重量になる場合は、測定の係にお申し出ください。
食生活バランスチェック
体組成との関連を分析
筑波大学・運動栄養学研究室が開発した栄養分析アプリ「Balance Up」を用いて、栄養摂取状況を調べ、食生活を評価します。この食生活バランス分析・評価と体組成の関連性を見い出し、運動栄養学の観点に立って、運動栄養学研究室所属の管理栄養士(大学院生)がアドバイスを提供します。
食事内容調査(入力)と食生活バランスチェック
食べたものを様々なジャンルで区別して入力していただきます。同時に、参加者ご自身で体重測定を毎日実施していただき、カラダに起こっている代謝反応を推察し、体組成測定で得られたデータとの関連性を見出していきます(大学院でスポーツ栄養を研究する管理栄養士による)。
使用するアプリは、食事の分量を正確に報告する仕様にはなってないことから、簡易ツールとはなりますが、参加者の方それぞれのカラダづくりの傾向を読み解くことができると思います。漏れなく入力いただくことが条件となりますので、その点をご理解ください。
ランニングパフォーマンスアップ実技講座、1500m走テスト
ランニングのパフォーマンスを高めるには、フォーム(走技術)が大きな鍵を握りますが、「理想のフォームとは何か?」「どこをチェックすればよいの?」「フォーム改善の方法がわからない」など、それぞれのアスリートやランナーの方がランニングフォームに関する悩みを抱えていると思います。
そこで、このセッションでは、筑波大学 陸上競技部 男子長距離チームの弘山駅伝監督が築いてきたノウハウやフォーム改善トレーニングを体験できる「ランニング実技編」としてプログラムを構成しました。パフォーマンスアップのフォーム技術に関して、何らかのヒントを持ち帰っていただくための講座になります。
講座の流れ
1.講義(座学)
理想のランニングフォームを追求するために、ポイントとなることを知識(理論)として説明する時間を設けます。
2.身体動作テスト
ランニング動作に関係する「関節可動域や多関節連動性、下腿三関節ジャンプ動作チェック、動作ポジションチェック」を実施し、フォームの課題を抽出します。
3.実技(トレーニング実践)
理想のランニングフォームを獲得するために必要な身体の使い方(全身の連動性、多関節の連動、身体各部の操作性、関節可動域)を改善する運動を実践していただきます。
4.1500mタイムトライアルテスト
1500mの平均速度は、最大酸素摂取能力の速度と一致すると言われています(トップアスリートの場合)。つまり、有酸素(優位の)運動において、パフォーマンスを最大限発揮できる距離とも解釈できます。これより短くなると無酸素能力の領域に突入しますし、これより長いと速く走り続けることが困難になるからです。有酸素能力の生理的な限界値が1500m付近で表れるという前提で、1500mの走力テストを実施します。
5.動画撮影とランニングフォーム評価
1500mタイムトライアル走行中の動画を撮影し、1500mのタイムとランニングフォームと関連性を簡易的に分析し評価します。
ランニングパフォーマンスの分析とフィードバックについて
各種測定結果を基に、1500mタイムトライアルやトレッドミル走行テスト、バイオメカニクス走行テストの結果と照らし合わせ、走力を構成する要素を分析し、各測定の走速度に表れている根拠(長所や弱点、課題)を探ります。
上の図はフィードバックのイメージですが、各教員および大学院生らが協議して、詳細な分析結果を示すことができるよう努めてまいります。どうぞお楽しみに!
主催と運営について
主催 | 筑波大学 |
プログラム 開催部局 |
筑波大学 産学連携本部 筑波大学 体育スポーツ局 |
講師 研究者 |
鍋倉賢治(体育系 教授) 麻見直美(体育系 教授) 榎本靖士(体育系 准教授) 弘山 勉(体育スポーツ局 准教授) |
医 師 | 渡部厚一 |
技能資格者 | 検査技師、管理栄養士 |
運営・測定 スタッフ |
体力学研究室 大学院生・学群生 運動栄養学研究室 大学院生・学群生 バイオメカニクス研究室 大学院生・学群生 陸上競技部 中長長距離 大学院生・学群生 体育スポーツ局 研究員・SA |
協 賛 | 株式会社アシックス |
講座の申し込み
本講座は、記録を伸ばしたい一般ランナーの方からトップアスリートまで「スポーツ科学の視点から筑波大学のノウハウを学び、自身の運動能力やカラダのことを分析できる」またとない機会です。
受講を希望される方は、下記のURLから講座の申し込みにお進みください。
ランニング講座上級コース ~科学的な視点からの走力アップ~
https://extension.sec.tsukuba.ac.jp/archives/lecture-list/2968
※お申い込みに際し、エクステンションプログラムの「申込・受講のご案内」と「利用規約」、このランニング講座の「参加同意書」を必ずご確認ください。