スポーツ科学・理論 [基礎知識]

【卒業研究】 陸上競技長距離選手におけるレース翌日の下肢メントール塗布がランニング時の知覚・呼吸代謝応答に及ぼす効果

筑波大学箱根駅伝チーム2022年度卒業の五十嵐優汰さん(体育専門学群 運動生理学 藤井研究室)の陸上競技長距離選手を対象とした長距離走レース翌日の下肢へのメントール塗布が、呼吸代謝応答および知覚に及ぼす効果を検討した卒業論文を紹介させていただきます。

キーワード:筋痛、酸素摂取量、TRPM8 抄録原本はこちら                  

【目 的】

陸上競技長距離選手は年間を通して数多くのレースに出場するが、レース後には筋損傷や筋痛などが起こり (Wilson et al. 2018)、運動パフォーマンスも低下する (Petersen et al. 2007)。

このパフォーマンス低下の要因としては、主観的運動強度の増加や、ランニングエコノミーの低下 (Braun and Dutto 2003)、換気量の増加 (Burt et al. 2013) などが挙げられる。しかし、上記の生理学的・知覚的ストレスを軽減させる陸上競技長距離走のレース後のリカバリー戦略は確立されていない。

メントールは、温度感受性イオンチャネルであるTRPM8を活性化して、冷感を強める作用がある。また、メントールには運動後のリカバリーにも効果があるとされており、先行研究では、メントールゲルを上肢の皮膚に塗布することで、運動後の筋痛が緩和され、筋発揮力の回復が促進されたと報告している (Johar et al. 2012)。しかし、メントール塗布により陸上競技長距離選手のレース後における呼吸代謝応答や筋痛、主観的運動強度が改善されるかは明らかではない。

以上のことから、本研究では陸上競技長距離選手を対象とし、陸上競技長距離走レース翌日の下肢へのメントール塗布が、呼吸代謝応答および知覚に及ぼす効果を検討することを目的とした。

【方 法】

被験者は、筑波大学陸上競技部に所属する長距離走を専門とする男性13名であった。怪我により2名が離脱し、最終的な被験者は11名であった。

 

被験者は、陸上競技会にて1日目に1500 m走、2日目に3000 m走に出場し、3000 m走翌日に実験室を訪れてラニングテストに参加した。ランニングテストでは溶液を下肢全体にメントール溶液塗布した後、5000 m走自己ベストの55%のペースから3分ごとに15%ずつ走速度を漸増させた。また、別の日に上述のレース参加後にプラセボ溶液を塗布する条件 (プラセボ条件) およびレースに参加せずにプラセボ溶液を塗布する条件 (コントロール条件) での測定も実施した。さらに、ジャンプテストと筋痛測定、および採血を溶液塗布前、塗布後およびランニングテスト後に行った。

 

【結果と考察】

コントロール条件と比較してプラセボ条件ではランニング時の酸素摂取量が高値の傾向を示し、分時換気量および酸素換気当量の増加も見られた。筋損傷マーカー (血清CK活性およびミオグロビン濃度) に両条件間の差はなかったことから、顕著な筋損傷が生じずともレース翌日にはランニングエコノミーの低下と呼吸ストレスの増大が起こることが示唆された。

プラセボ条件と比較してメントール条件では、ランニング時の酸素摂取量 、分時換気量、酸素換気当量および主観的運動強度 が低値を示した。

 

 

これらの結果から、陸上長距離選手において、下肢へのメントール塗布はレース後のランニングエコノミーの低下および換気亢進応答を軽減させ、主観的運動強度を低下させることが示唆された。

 

【結 論】

陸上競技長距離種目レース後には、ランニング時の呼吸代謝ストレスが増大するが、下肢へのメントール溶液塗布により、これらのストレスは軽減され、さらに主観的運動強度も低下することが示唆された。

 

 

この記事を書いた人
学生アスリート
令和のいだてん
筑波大学 陸上部 駅伝メンバーです。 箱根駅伝出場を目指し日々鍛錬中!

RELATED

PAGE TOP