スポーツ科学・理論 [基礎知識]

【卒業研究】 陸上競技長距離選手における短時間高強度ランニングが鉄剤摂取後の血清鉄・ヘプシジンに及ぼす影響

筑波大学箱根駅伝チーム2022年度卒業の永山龍吉さん(体育専門学群 運動生理学 藤井研究室)の短時間高強度ランニングが、鉄摂取後の血清鉄・ヘプシジン・IL-6に及ぼす影響を検討した卒業論文を紹介させていただきます。

キーワード:長距離走、鉄吸収、IL-6 抄録原本はこちら                  

【目 的】

近年、貧血の要因として鉄吸収動態に影響するヘプシジンと、炎症性サイトカインの1つであるIL-6が注目されている。運動後に体内で炎症が起こりIL-6が上昇すると、ヘプシジンの分泌が誘発され (Peeling et al.2009)、その結果として鉄吸収が阻害され、鉄欠乏性貧血を招く可能性がある (Peeling et al.2008)。

これまでの研究では、中強度 (60-75VO2peak) の長時間 (40-120分) 運動後のヘプシジン動態を調べた研究がほとんどであり、短時間高強度ランニング後の血中ヘプシジン・IL-6応答は明らかではない。

もし、短時間高強度ランニング後に血中ヘプシジン・IL-6が上昇するのであれば、ランニング後に経口摂取した鉄の吸収が阻害され、血清鉄の上昇も大幅に阻害されると考えられる。

以上のことから本研究では、陸上長距離選手を対象に、短時間高強度ランニングが、鉄摂取後の血清鉄・ヘプシジン・IL-6に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

【方 法】

被検者は陸上競技長距離 (5000m~ハーフマラソン) を専門とする男子大学生16名であった。

本実験は、1) 高強度一定負荷ランニング運動を行った後の安静時 (運動条件)、もしくは2) 座位安静時 (安静条件) に鉄剤を摂取する2条件で測定を行った。運動条件では、10000m自己ベストの98%-100%の平均速度で8分間のランニングを行い、その後、鉄剤を35mg摂取した。安静条件では運動を行わず、同量の鉄剤を摂取した。両条件ともに鉄剤摂取後座位安静を保った。ベースラインおよび鉄剤摂取後1、2、3時間後に採血を行った。

 

【結果と考察】

本研究では、以下の3つが主な結果として得られた。

1)血清IL-6濃度に条件間で差が見られなかった。

2)安静条件よりも運動条件で、血清ヘプシジン濃度および血清鉄が高値を示した。

 

3)安静時の血清フェリチン濃度が低い選手(<30ng/mL)では、両条件ともに血清ヘプシジン濃度は上昇しなかったが、フェリチン濃度が高い選手 (30≦ng/mL)では、運動条件でのみ血清ヘプシジン濃度が上昇し、血清鉄と血清IL-6濃度に条件間での差はみられなかった。

 

運動後に血清ヘプシジン濃度が上昇することは先行研究と一致している。一方で、予想に反して血清鉄濃度が高値を示した要因として、持久性ランニング運動時の足底への衝撃に伴う赤血球損傷 (Telford et al.2003) が挙げられる。

血清IL-6濃度に条件間で差が見られなかった要因として、運動時間が影響している可能性が考えられる。先行研究において、血清IL-6濃度は短時間 (60分) よりも長時間 (120分) の運動でより大きく上昇することが報告されている (Newlin et al.2012)。したがって、運動時間が長くなるほど血清IL-6濃度が上昇する可能性が考えられ、本研究では高強度であるが短時間の運動 (8分) であったため、血清IL-6の顕著な上昇が生じなかったのかもしれない。

運動前のフェリチン濃度が運動後の血清ヘプシジン濃度の変化に影響することは 、先行研究と一致している (Peeling et al.2014)。フェリチン濃度が高い選手において、運動後に血清ヘプシジン濃度が上昇するにも関わらず血清IL-6濃度は変化しなかったことから、血中ヘプシジン濃度の上昇にはIL-6以外の要因も関わっている可能性が考えられる。

 

【結 論】

陸上長距離選手において、短時間高強度ランニング運動後に鉄剤を摂取した場合、フェリチン濃度が高い選手では血中ヘプシジンが上昇するものの、血清鉄とIL-6はそれに対応した変化を示さないことが示唆された。

 

 

この記事を書いた人
学生アスリート
令和のいだてん
筑波大学 陸上部 駅伝メンバーです。 箱根駅伝出場を目指し日々鍛錬中!

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