ランニング理論・科学

【卒業研究】(要約編)長距離走のトレーニング指標の定量化とパフォーマンス発揮率との関連

長距離走のトレーニング指標の定量化とパフォーマンス発揮率との関連(要約編)

福谷颯太(外科系スポーツ医学 研究室)2023年3月卒業

指導教員(正):向井直樹
指導教員(副):福田 崇、竹村雅裕

【目的】

1.T大学陸上競技部長距離パートのトレーニングを追跡調査し,セッションRPE・ACWR (急性:慢性期作業負荷比)・OSTRC スコアを明らかにすること

2.調査期間のトレーニング指標(セッションRPE・ACWR・OSTRCスコア)とハーフマラソンのパフォーマンス発揮率との関連性を明らかにすること

【方法】

研究対象者は、箱根駅伝予選会に登録されたT大学陸上競技部長距離チームの選手14名で,調査期間は 7/13~10/11 とした。調査方法は,毎日のトレーニング報告と週に1度の疼痛調査をそれぞれ Googleフォームで回答してもらった。

■トレーニング報告
朝・午前・午後に行った各走行練習のRPE・走行距離(km)と1日の総走行距離(km)を回答
■疼痛調査
疼痛調査には日本語版OSTRC質問紙を用いた。質問紙では疼痛部位を回答後,その部位に関する4つの質問(調査週のトレーニング参加状態・量・パフォーマンス・痛みの程度)を各 0~25 点で回答してももらい、合計を100点としで評価した。


■パフォーマンス発揮率
レース前に設定した「目標タイム」と実際の「ゴールタイム」それぞれをWA(世界陸連)が定めている「スコアリングテーブル」でポイント化し,ゴールタイムのポイントを目標タイムのポイントで除すことで算出した。


■データ分析
これらの調査項目とハーフマラソンのパフォーマンス発揮率間で単回帰分析を行い,有意水準は0.05未満とした。

【結果】

(1) 週毎の平均sRPEとACWRの推移
sRPE は合宿に入った8/10~8/16の週から,急激に急増し.その後,8/31~9/6の週まで低下した.再び合宿に入った9/7~9/13の週と9/28~10/4の週に再度増加したが,レースに近づくにつれては低下した.

選手1人当たりの週毎のOSTRCスコアと平均ACWRの推移

ACWR はsRPEの値に依存するため,ACWRも同様の推移を示した。

(2) 週毎の平均OSTRCスコアと平均ACWRの推移
ACWRが高値を示した週に,OSTRCスコアも高値を示した。通常群も部分離脱群も同様のOSTRCスコアの推移を示したが,通常群のほうが低値を示し続けた。

トレーニング群の選手の週毎のACWRの推移

別トレーニング群の選手の週毎のACWRの推移

(3) ACWRの値別に見た平均OSTRCスコア
通常群.部分離脱群共にACWRが 0.8~1.3 の範囲だった時,OSTRCスコアが低値を示した。これは,先行研究と同様の結果だった.

ACWRの値別に見た平均OSTRCスコア

(4)単回帰分析の結果
単回帰分析の結果,ハーフマラソンのパフォーマンス発揮率と調査項目では,有意な関連は見られず,予測精度も低い結果となった。

各タイムのスコアとパフォーマンス発揮率

単回帰分析の結果

【考察】

調査期間のトレーニング計画では,8/10~8/16 の週にトレーニング量・強度が増加するものとなっていたことから、その週のsRPE・ACWRが急激に増加する結果を示したと推察した。

OSTRCスコアもトレーニング量・強度が増加したことに併せて高値を示したと考えられる。このようなトレーニング量・強度の急激な上昇 及び 低下は障害リスクを高めるが,今後も本研究の調査項目のデータを収集していくことで,トレーニング量・強度を事前に調整できる。

sRPE・ACWR・疼痛調査によるデータ収集によって、障害リスクを感知し、スポーツ障害発症やオーバートレーニング症候群を未然に防ぐことが出来る可能性があることが示された。

レース当日のパフォーマンス要因は他因子も多く内包するために本研究の調査項目との関連が見られなかったが、今後更に長期間に渡って高い精度のデータを収集することができれば、目標タイムの予測精度が向上するなど,パフォーマンス発揮率が高くなる可能性がある。


以上が要約編です。
さらに詳細な内容を投稿していますので、興味ある方は是非ご覧ください。
【卒業研究】(詳報編)長距離走のトレーニング指標の定量化とパフォーマンス発揮率との関連
https://idtn-tsukuba-ac.jp/running/graduation_thesis_fukutani2023_1/
スポーツ障害やオーバートレーニング症候群を未然に防ぐための方法として参考にしていただけるはずです。

卒業論文投稿者

福谷颯太 2023年3月 筑波大学を卒業
外科系スポーツ医学 研究室 所属(指導教員:向井直樹)
3年次に関東学生連合チームで箱根駅伝5区出場
4年次は駅伝主将を務め、箱根駅伝予選会15位
現在は、黒崎播磨陸上競技部 に所属し活躍中

この記事を書いた人
学生アスリート
令和のいだてん
筑波大学 陸上部 駅伝メンバーです。 箱根駅伝出場を目指し日々鍛錬中!

RELATED

PAGE TOP