スポーツ科学・理論 [基礎知識]

ランニングとはどういう運動?(トレーニング科学入門②)

◆自分の競技の運動構造を知ろう◆

2回目のトレーニング科学入門は、パフォーマンス向上に向けた的確なトレーニング目標を設定するために、まず自分の競技(=ランニング)がどのような構造になっているのかを考えてみましょう。 競技運動とは、「動作」、「要求されるパフォーマンス」、「主となるエネルギー供給システム」をはじめとする、様々な要因が影響しあい構築されているシステムと考えられます。

◆動作特性による分類◆

競技運動は動作特性によって、①循環スキル、②非循環スキル、③複合スキルの3つに分類することができます。 ランニングは右脚接地→重心移動→右脚離地→空中期を経て左脚接地→重心移動→左脚離地→空中期を経て右脚接地というサイクルを基本とする循環スキルの代表的な運動です。マラソンとなると1万サイクル(歩数にすると2万歩)以上繰り返す運動となり、1歩の技術向上が2万倍になる可能性があります。このことからも、マラソンをはじめとする長距離走において、1歩の技術向上のトレーニングが重要であることがわかってもらえると思います。

◆要求されるパフォーマンスによる分類◆

競技種目によって求められる体力、技術・スキルなどが大きく変わってきます。自分の身体を操作するのか、道具を操作するのかだけでも大きく違います。 技の正確性や表現力を競うフィギアスケートや体操競技、アーティスティックスイミングは、自身の身体の調整能力やスキルの完成度が重要となり、カヌーやセイリングなどは道具を扱うスキルとそれに合わせた身体の調整能力が重要となってきます。 ランニングは「自分の身体を出来るだけ速く、決められた距離を移動させる」競技だと定義することができますので、スピードと持久力をはじめとする体力要素の融合と、それを効果的に発揮するための身体の調整能力や走技術の獲得が重要であることは明らかです。

◆主となるエネルギー供給システムによる分類◆

運動を行うためのエネルギーは、簡単に言うとアデノシン3リン酸(ATP)をアデノシン2リン酸(ADP)とリン(P)に分解することによって創り出されます。そして分解するだけではATPがすぐ枯渇してしまうので、同時にADPとPを再合成してATPを創っていく作業を行います。このADPとPの再合成に酸素を使用するかしないかで有酸素システムか無酸素システムかに分類されます。 運動時間によって主となるエネルギー供給システムが変わってきますので、競技種目によって重要となるシステムも当然異なります。したがって、自分の競技に重要なエネルギー供給システムを理解してトレーニングを計画していかなければ、思ったような効果が得られない状況が生じてしまいます。


◆ランニングとはどういう運動?◆

以上のことから、ランニングとは「自分の身体を出来るだけ速く決められた距離を移動させる」競技であり、主として有酸素エネルギー供給システムを使用し、決められた距離の間、可能な限りスピードを発揮、維持しながら、同じ動作サイクルを1万回以上繰り返す循環スキルというパフォーマンス構造を持つ運動であると言えます。

従って、①レース距離を走り切る能力、②レーススピードを維持する能力、③走りの経済性の向上という中長距離走パフォーマンスを構成するそれぞれの要因を抽出し、一つ一つの現状を把握し、到達目標を設定することが、レースでの目標達成に向けたトレーニングの第一歩になると考えられます。また、万が一故障をしてしまいランニングトレーニングが出来なくなった場合でも、ランニングという自身の運動の構造を理解していれば、その要素を細かく分解して故障個所以外の部分をその目的に応じたランニング以外の方法で維持していくことも可能であり、早期復帰につながります。

次回は、トレーニングの原理、原則についてお話したいと思います。

この記事を書いた人
木路 コーチ
20年間、自身の競技と指導活動で大塚製薬陸上部にお世話になったのち、筑波大学大学院のスポーツマネジメント領域に進学し、高度競技マネジメントの研究に携わり、現在、大学生の長距離指導者としての人生を歩んでいます。 専門分野としては、コーチング学(目標論、方法論、評価論)とスポーツマネジメント学(組織論、強化システム論、企業スポーツ論、地域スポーツ論)となりますが、そんな堅苦しいことではなく、自分を育ててくれた「ランニング」で得たものを使って、何かしらの恩返しができれば良いと思っています。よろしくお願いいたします。

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