コラム

マラソンと大学のあるまち

◆わがまちのマラソン大会

スポーツ事業には、施設の整備などの地域再開発促進やそれに伴う地域経済の活性化という、いわゆるモノやカネの面の効果だけでなく、それに関わる地域の人々の様々な意識向上というヒトに対する効果があり、「ひとづくり」のツールとしての重要性が高まっています。

そこで今回は、自分たちのまちで開催されるマラソン大会が、地域の人々の意識にどのような影響がもたらすのか? ということを考えてみたいと思います。

地域で開催されるマラソン大会と一概にいっても、そのかかわり方によって思いは様々です。ランナー(ランニングを「する」人)にとっては、地元ということで数々の出場大会の中でも一番力が入る大会となるでしょうし、不安を抱える初心者ランナーは、出場に向けて少し気楽に背中を押してもらえる力にもなるでしょう。どちらにしても、もっと速く走りたい、もっと専門的なことを知りたいなど様々な「もっと」が生まれてきて、日々のランニングライフにおけるモチベーションアップにつながることは間違いありません。

また、それまで走ることに躊躇していた人が、家の近くを通るから応援してみたら、心の奥底にあったランニングへの興味が引き出され、自分もやっぱり走ってみようかなという気持ちになり、「する」人の仲間入りをするかもしれませんし、走るのはまだちょっとと思っても、大会の雰囲気は味わってみたくて、また応援に行ってみよう、ボランティアで参加しようという気持ちが生まれて、「みる」人、「ささえる」人となるかもしれません。

このようにマラソン大会は、地域の人たちのランニングへの様々な関わり方へのフックとなり、新たな運動習慣や人との繋がりによって豊かな暮らしに必要な「健康・楽しみ・交流」を生みだし、地域住民の健康問題や、コミュニティの喪失など自治体の抱える課題解決の糸口にもなりうる可能性を持っていると言えます。

 

◆大学が出来ること

一方、地元のマラソン大会をフックに、様々な形でランニングに関わりたいという地域の人々に向けて、大学は何ができるのでしょうか? 

大学には、学生ランナー、専門知識を担保されたランニング指導者、スポーツ科学のオーソリティーという人財、競技場をはじめとする多様なトレーニング施設、様々な測定が可能な研究施設、大学ならではの精度の高いスポーツに関する科学的知見など、ヒト、モノ、情報というスポーツ資源が豊富にあります。 大学がこれらを活用し、効果的に発信することにより、ランナーの様々な「もっと」に応えることができ、日々のランニングライフを楽しいものにするお手伝いができるはずです。

また、これらの情報が何かのきっかけとなり、指導者がいなくて日々悩みながらトレーニングを行っているジュニアランナーの競技生活を充実したものに変えるお手伝いもできるはずです。併せて、ランニング以外の地域の様々なものとのより良い関係性を皆で考える機会の提供も必要です。 ボランティアや大会観戦など、走ること以外のランニングの楽しみ方の情報発信も、走ることに興味の無いランナー以外の人のランニングに対する共感度を高めるために重要となってきます。この共感度が高ければ高いほど、日常生活のランナーとの共存や大会開催時の交通規制などによって生じる不満を上回り、「ランナーに優しいマインド」が高まっていくと考えます。

近年、企業スポーツの世界において、企業がスポーツチームという資源を有する価値が、広告宣伝費という経済的価値から企業の社会的責任(CSR)に基づく、社会貢献+地域共生という社会的価値に変容してきました。同様に大学も、所有するスポーツ資源を地域に還元することにより、ランニングを「する」、「みる」、「ささえる」全ての人たちへの安心・安全で魅力のあるランニングライフの提案や、自己満足に終わらない地域との共存に向けた啓蒙活動、ランニングに関わっていない人たちへの興味喚起を通して、「ランナーに優しいマインド」に基づくランニング文化の醸成に貢献する必要があり、またその力を持っているのではないでしょうか。

 

◆マラソンと大学のあるまち

つくば市、土浦市、かすみがうら市には、全国の市民ランナーから認められるつくばマラソン、かすみがうらマラソンがあり、豊富なスポーツ科学の知見を有し、箱根駅伝を目指す学生が活動する筑波大学があります。 この人気市民マラソンを核として、つくば市、土浦市、かすみがうら市、そして筑波大学が持つ様々なスポーツ資源を結び付け、興味を持ってくれる地域企業と協働して市民ランナーのニーズに応える活動を提供ができれば、ランニングを通して、スポーツの力を利用した地域の人々の幸福感(Well-Being)を創造し、高めて行くことができる環境つくり=スポーツによるまちづくりに十分貢献できるのではないでしょうか。

そして、人気市民マラソン大会と大学があるという強みを活かし、地域全体に「ランナーに優しいマインド」があふれる、思わず走りたくなるようなRunning Townに近づいていければ、市民ランナーの聖地にもなりうる可能性が十分にあるのではないかと考えます。 その活動をより充実させるためは、前回も書いた通りランナーの想いや自己満足だけでは成立せず、地域の行政、産業、学校、そして住民の理解による地域全体の協働が必要です。そのコーディネート役として、韋駄天ランニングアカデミーが出来ることは多様にあると思います。

 

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この記事を書いた人
木路 コーチ
20年間、自身の競技と指導活動で大塚製薬陸上部にお世話になったのち、筑波大学大学院のスポーツマネジメント領域に進学し、高度競技マネジメントの研究に携わり、現在、大学生の長距離指導者としての人生を歩んでいます。 専門分野としては、コーチング学(目標論、方法論、評価論)とスポーツマネジメント学(組織論、強化システム論、企業スポーツ論、地域スポーツ論)となりますが、そんな堅苦しいことではなく、自分を育ててくれた「ランニング」で得たものを使って、何かしらの恩返しができれば良いと思っています。よろしくお願いいたします。

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