コラム

スポーツツーリズムと聖地

◆スポーツツーリズム

2010年あたりから、観光庁による観光立国政策の一つとしてスポーツ資源を積極的に観光資源として役立てようとするスポーツツーリズム政策が推進されるようになり、そこにスポーツ庁も関わりスポーツ合宿・キャンプの誘致通季・通年型スポーツアクティビティの創出に対する補助事業が積極的に行われるようになりました。スポーツツーリズムは、大きくマラソン大会への参加などイベント参加型、J リーグ、プロ野球の試合やキャンプ地応援などの観戦・応援型、トップ選手やスポーツ愛好家の皆さんの合宿など強化・親睦型に分類されます。

全国には、イベント参加型のスポーツツーリズム政策に大きな影響力を持つスポーツイベントを通した聖地と呼ばれる特別な場所がいくつか存在します。その競技に携わる人たちの憧れの地としてスポーツの聖地とは一体どういうものなのでしょうか? 以前、指導教官として担当した学生の自分の地元を棒高跳の聖地にするために必要な取り組みについて調査した卒業論文で、イベントによるスポーツの聖地と呼ばれる条件を考察してもらったところ、① 長い歴史を持つこと② 重要な大会が開催されること③ 人々の記憶に残るようなドラマティックな試合が数多く行われていること④ 競技者として憧れの地であることの4つの条件が抽出されました。

甲子園(阪神甲子園球場)、国立(旧国立霞ヶ丘陸上競技場)、花園(東大阪市花園ラグビー場)などは、それぞれ高校野球、高校サッカー、高校ラグビーの開催地として長い歴史のあり、誰もが一度は聞いたことのある、高校生にとっての憧れの場所です。そして、そこで生み出された数々の名場面や、伝説的なプレーをすぐ思い浮かべることができる場所であることからも、聖地と呼ばれる条件を十分に満たしていると言えます。

これらの条件から考えると、大学の長距離選手にとっては、来年100回を迎える憧れの箱根駅伝の象徴であり、数々のドラマを生み出した箱根の山も、十分に聖地と呼ぶに値する場所だと思います。そして、市民ランナーの皆さんにとっては日本で最大の市民マラソンが開催される東京、海外ではホノルルがその場所となるのでしょうか。

何十年後かに東京オリンピックという世界最大のスポーツの祭典を経た新国立競技場が、日本スポーツの聖地となっていることを願ってやみません。

◆合宿誘致と聖地化

一方、合宿などの強化・親睦型のスポーツツーリズム政策もスポーツ合宿誘致活動として長年展開されています。中でも、長距離・マラソンはやるべきトレーニングをより快適に行える環境が重視され、同じトレーニングを踏襲し、過去データと比較することも多く、トレーニング環境に大きな変化が生じない限り、合宿地が固定される例が多く、駅伝などは20人前後のチーム単位である程度の期間が確保されるため、長距離・マラソンの合宿誘致はスキーやマリンスポーツのオフシーズンの宿泊施設活用などの交流人口拡大の有効手段として早くから取り組まれてきました。そして、激しい誘致競争の中、ロードコース、クロスカントリーコース、全天候型トラック、そして食事レベルも確保された快適な宿泊施設などが整備され、全国各地かなりのレベルの合宿地が存在します。

これらの合宿誘致の成功事例を見てみると、補助金制度などの支援により、宿泊施設のコスト削減と食事レベル+快適さ維持という相反する問題の解決など、自治体、宿泊施設、地域一体となった理解と協力体制によりはじめて達成できるものだと改めて感じます。誘致が上手くいかない地域のお話を聞いてみると、ホテル・旅館協会は乗り気だけど、自治体はそれほど、またその逆という温度差がみられることが多いです。この部分の協力体制が確立されてはじめて、地域住民の理解も得られ、施設整備など、まち全体での誘致活動推進状況が作れるように思います。

そして、地域住民の協力による受け入れ環境などニーズ対応の評判がチーム間で共有されると、日本陸上競技連盟や日本実業団連合などの日本のトップランナーの合同合宿地として認められます。その中からシドニーオリンピックの高橋尚子選手やアテネオリンピックの野口みずき選手のような金メダリストが誕生するとなるとマラソンランナーの聖地としてのブランディングはある程度完成したといえるでしょう。

実際、高橋選手が強化合宿を行った徳之島では、使用した31.2kmの周回コースが尚子ロードと名付けられ、長野県菅平高原には野口選手の名前が付いた野口みずきクロスカントリーコースがあります。これらの命名が、この場所で行われた栄光をつかむための血のにじむ努力を想像させ、メダリストの夢を追う選手たちの憧れの場所=聖地としての価値を上げることに一役買っていることは間違いないでしょう。

◆市民ランナーの聖地を目指して

前回のコラムで、わがまち(つくば市、土浦市、かすみがうら市)には、人気の市民マラソン大会と大学があるという強みを活かしたRunning Townを目指す先に、市民ランナーの聖地になりうる可能性が十分にあるとお話ししました。

さて、わがまちが市民マラソンの聖地と認められるためには、どのようなドラマ、憧れを創出していけば良いのでしょうか? 皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 

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この記事を書いた人
木路 コーチ
20年間、自身の競技と指導活動で大塚製薬陸上部にお世話になったのち、筑波大学大学院のスポーツマネジメント領域に進学し、高度競技マネジメントの研究に携わり、現在、大学生の長距離指導者としての人生を歩んでいます。 専門分野としては、コーチング学(目標論、方法論、評価論)とスポーツマネジメント学(組織論、強化システム論、企業スポーツ論、地域スポーツ論)となりますが、そんな堅苦しいことではなく、自分を育ててくれた「ランニング」で得たものを使って、何かしらの恩返しができれば良いと思っています。よろしくお願いいたします。

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