コラム

ランニング文化の醸成

◆生活の中にあたりまえのようにスポーツがあること

前回のコラムで、スポーツによるまちづくりとは、単なる地域の再開発による経済の活性化にとどまらない、住民がスポーツに関わることによって得られる意識向上に基づく地域全体の活気づくりであり、だからこそ、生活の中にあたりまえのようにスポーツがある環境が必要なのだと書きました。

筑波大学があるつくば市は、市制施行の1987年から2021年の34年間連続で人口が増え続けており(つくば市公式Webサイト)、現在も高層マンションの建設が進んでいます。 一方で、増えていく市民のスポーツ環境は、芝生広場や野球やサッカーができるグランド、テニスコートがある公園が数多く整備されていますが、事前予約が必要な施設が多く、思い立った時にいつでもスポーツがやれるという点では、少し面倒くさく感じるかもしれません。

また、地域に根付いたスポーツチームや、本格的なスポーツイベントが開催できるスタジアムやスポーツアリーナも無く、気軽にスポーツを「みる」ことや、地元チームの応援、協力など「ささえる」機会が多いとも言えません。 生活の中にスポーツをあたりまえのように感じるためには、ある意味、ふらっと映画館に行ったり、仲間と居酒屋で盛り上がったりするのと同じくらい簡単なものにならなくてはいけないように感じます。

 

◆ランニングのある暮らし

つくば市や霞ヶ浦湖畔には、自然を利用したトレイルランコース、大きな芝生広場やジョギングコースが設置された公園、ランニングにも利用できるサイクリングロードが整備されており、私たち筑波大学男子駅伝チームも重要なロード練習の際には、霞ヶ浦湖畔のコースを活用させていただいています。また、つくば駅周辺ではランニングステーションの試験運用も開始され、よりランナーに優しい環境が準備されています。

そして、つくば市では、11月につくばマラソン、近隣の土浦市、かすみがうら市には4月にかすみがうらマラソンが開催されています。つくばマラソンは1981年の初開催から42年、かすみがうらマラソンは1991年から32年の伝統を誇り、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、残念ながら両大会とも2020年、2021年は中止となってしまいましたが、2019年の全国市民マラソン大会参加者数ランキングでは、かすみがうらマラソンが10位(20,252人)、つくばマラソンが11位(18,112人)と上位に位置する人気大会となっています(計測工房調べ)。

これらから考えると、走りたいときに走れる環境があり、目標としたり、観戦したり、手伝ったりと様々な関わり方ができる人気のマラソン大会が地元にあるつくば市や土浦市、かすみがうら市は、生活の中にランニングが入り込める可能性、ランニングのある暮らしつくりが出来る可能性がかなり高いのではないかと考えます。

 

◆ランニング文化の醸成

ランニング環境の充実といっても、登山道や公園のジョギングコース、サイクリングロードは当然、ランナー専用ではなく、健康のためのウォーキング、家族でのサイクリング、あるいは、ロードバイクの専門的トレーニングなど様々な目的を持った方々との共有です。その中で、ランナー、ウォーカー、ライダーがそれぞれの自己満足の快適さを求めて主張しあうとどうなるでしょうか?

本来楽しいはずのスポーツの時間を、危険を感じ、嫌な思いをしながら過ごさなければならず、自分のスポーツ以外に嫌悪感を抱くだけになってしまい、スポーツの力を活用して、豊かに生きるための「健康・楽しみ・交流」を生み出すことは出きません。

この思いは、スポーツをやる人同士に限ったことではなく、マラソン大会開催時の交通規制に不便さ覚えて、ランナーに対して良い感情を抱かないマラソンコース周辺の住民の方々も、当然おられるでしょう。そのような様々な思いの中で、その地域に思わず走りだしたくなるような環境が出来ることは、決して無いと思います。

これらのことから、生活の中にランニングが入り込むためには「ランナーに優しい」というマインドがあることが大事なのではないかと感じています。しかし「ランナー優しい」マインドとは、決してランニングをしない人たちに、ランナーの気持ちを理解して下さいというものではありません。

まず、ランナーが自分たちの満足だけでなく、周りの人を気遣い、周りとの共存を目指すことによってはじめて、ランナー以外の人々の理解を得ることができ、「ランナーに優しい」マインド、おもてなし(ホスピタリティ)意識として自分たちに返ってくるものだと考えます。  

 

上の写真のように、「Welcome to All Our Athletes」と何気ない言葉で良いのです。そのマインドで参加者を迎えていただければ、つくばマラソン、かすみがうらマラソンは更に良い大会に発展できると思いますし、ハード面の充実に伴い、合宿にも対応できる他県に誇れるRunning Townができるのではないかと今からワクワクしてしまいます。

そして、そのマインドに基づいた行動はまさに、「相手を尊重する」というフェアプレーの精神に基づくランニング文化であり、その取り組みの先にあらゆるスポーツに優しい環境=「スポーツ文化」の醸成、スポーツによるまちづくりが繋がっていくのではないかと期待します。 このような取り組みは、ランナーの満足だけでは成立せず、何度も書きますが、地域の行政、産業、学校、そして住民の理解による地域全体の協働が必要です。

そして、関わってくださった皆さんが、スポーツの持つ力を活用できることになれば素晴らしいことですし、そのお手伝いができることは、韋駄天ランニングアカデミーに関わる学生にとっても有意義なことだと考えます。

 

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この記事を書いた人
木路 コーチ
20年間、自身の競技と指導活動で大塚製薬陸上部にお世話になったのち、筑波大学大学院のスポーツマネジメント領域に進学し、高度競技マネジメントの研究に携わり、現在、大学生の長距離指導者としての人生を歩んでいます。 専門分野としては、コーチング学(目標論、方法論、評価論)とスポーツマネジメント学(組織論、強化システム論、企業スポーツ論、地域スポーツ論)となりますが、そんな堅苦しいことではなく、自分を育ててくれた「ランニング」で得たものを使って、何かしらの恩返しができれば良いと思っています。よろしくお願いいたします。

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