スポーツ科学・理論 [基礎知識]

第1回:ランニングの運動強度 その一(基礎編)

ランニングという運動を行うために、身体の中でどのようにエネルギーを作り出しているのでしょうか?

同じランニングでも運動強度(走速度)によって、エネルギーを生み出す過程が異なります。このような学問・研究を運動生理学といいますが、今回から3回に分けて、その概要について以下の内容で簡単に紹介します。

その一(基礎編):一般的・基礎的な話
その二(レース編):ランニング・レース中の状態
その三(トレーニング編):トレーニングへの応用

今回は、その一として、基礎的な内容で話を進めてみたいと思います。


有酸素運動と無酸素運動

ランニングが代表的な有酸素運動であることは皆さんもご存知のことでしょう。有酸素運動とは、大雑把に言うと、酸素を利用しながら体内に蓄えられている糖(グリコーゲン)や脂肪をエネルギーに変換し(有酸素性エネルギー代謝といいます)、筋収縮(=運動)を行なう運動の総称です。ゆっくり走るジョギングなどでは、主に脂肪がエネルギーの源(脂質代謝)となり、少し速くなるに従い、糖の利用割合が増えてきます。1~3分程度の全力走になると、解糖系と呼ばれる酸素を利用せずに糖を使うエネルギー代謝に移行してゆきます。さらにスプリントなどの短時間(10秒以内)の瞬発的な運動では、筋内に貯蔵されているATPクレアチンリン酸を活用した代謝によってエネルギーを生み出しています。

一般に有酸素運動と呼ばれるのは、脂質代謝と糖質代謝から酸素を利用しながらエネルギーを作り出す運動のことを指します。それに対して、酸素の供給なしにエネルギーを生み出す解糖系などを総称して無酸素運動と呼びます。

有酸素運動と無酸素運動を区別する要因は、第一に運動強度です。強度が軽いときはおおむね有酸素運動で、強度が高くなると無酸素運動へ移行してゆきます。われわれの日常生活では、立ち上がったり、歩いたり、小走りしたり、重いものを持ったり、と刻々と運動強度が変わっていきます。その状況に応じて、そのつど身体が運動に対応し、適切なエネルギー供給を行なってスムーズに活動(運動)を遂行しているのです。

有酸素運動の特徴

有酸素運動が健康のための運動として優れている理由として、①低強度の運動のため、無理なく運動を持続できること、②生活習慣病の厄介因子である脂肪をエネルギー源として利用できること、③局所(ある一定部位)へ大きな負荷がかからないこと、などが挙げられています。

無酸素運動の特徴

それに対して、無酸素運動は、①代謝過程で乳酸(エネルギー代謝を制限する物質)が生成され、運動を長時間持続できない、②特に局所の筋への依存が大きい場合(筋力トレーニングなど)、血圧などが急上昇しやすい、③運動中に脂肪は使われない、などの特徴があり、健康を目的とした運動には不適であるといわれています。

オーバーペースがもたらすもの

とはいえ、スポーツの場面では、より高いパフォーマンスを発揮するために、強い運動が必要となります。しかし、強度が極端に高かったり、その状態が長く続いたりするとどうなるでしょうか?


ランニングで言えば、短い距離のレースなの前半に、かなり速いペースで突っ込んだときに、中盤以降に極端にペースが落ちてしまった経験を持っている人は多いと思います。その場合の原因の多くは、最初の運動強度が高すぎて(オーバーペース)、乳酸濃度が上昇したためエネルギー代謝が制限された結果と考えていいでしょう。次回は、そのようなランニング中のエネルギー代謝について、話を進めたいと思います。

この記事を書いた人
鍋倉 賢治
筑波大学体育系教授 ランニング学会会長 1963年 東京都生まれ 1991年 筑波大学大学院体育科学研究科修了・教育学博士 【競技歴】2時間29分09秒(1998年別大マラソン) 【研究テーマ】 運動中のエネルギー代謝とパフォーマンス、マラソンのペース戦略、長距離走の第4因子の探索など 【主な著書】 続・マラソンランナーへの道~より速くスマートに走り続けるために(大修館)ほか コロナ禍で閉塞する社会情勢の中、昨秋、独自のフルマラソン大会を開催しました。開催に向けた準備、初フルに挑んだ学生、市民ランナーなど支援してくれたボランティアスタッフ、総勢130名の小さいながらも、充実したイベントになりました。対面でリアルに活動することの意義や重要性を再認識しています。

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